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はらっぱこびとのおうち

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熊鈴(くますず)

間もなく冬至。
日の暮れるのが一年中でいちばん早い時期。
いつもは五時の鐘で帰ってくる子どもらですが、
この頃は少し早い時間に呼び寄せないと、
ほんの五分ほどで、すとんと日が落ちるから油断がなりません。
まさに「秋の日はつるべ落とし」ということわざどおり。

いくら子どもが家のごく近所で遊んでいるとはいっても、
呼び寄せるというのは、じつはあんまり簡単なことではないのです。

「◯◯〜、帰っておいでー」
窓を開けて、大きな声で読んでみるけれど、まずは返事があることさえ稀。
「◯◯〜、△△に、□□〜、時間だよ〜」
運が良ければ、ひとりくらい、反応がある。
すぐに声のしたあたりに駆けつけて、ひとり確保。
「◯◯と△△〜、すぐ真っ暗になるから、帰っておいで〜」
あたりをぐるぐる歩き回って、
ようやく近所の子らとしゃがみこんでお絵描きをしている△△を発見。
その頃には、火にかけっぱなしだったお鍋のことなんかを思い出して、
あわてて家に戻る。
すっかり日が沈んで、5時の鐘が鳴った頃に、
「あー楽しかった、すっかりおそくなっちゃった!」
とかなんとか言いながら、明るく◯◯が帰ってくる。
ああ、よかった・・・だけどこれが毎日。
毎日毎日定刻に、子どもの名前を大声で呼ぶのもなあ。
何かいい方法、ないかなあ。

とそんな頃。
今シーズンから山岳マラソンと称するものに入れあげて、
週末ともなればすかさず、奥多摩や高尾の山々に走り出かけてゆくお父さん。
「どうもこの間奥多摩に熊が出たらしくて・・・熊よけがいるんじゃないかと思うんだよなあ」
と心配そうにつぶやいていたかと思ったら、
そのうちうれしそうに、こんなの頼んだんだ、と持ってきました。
「富山のさあ、お仏壇の道具を作っている人が作っているんだよ。熊 鈴っていうの」
見れば、つやつやした金属のベル型の鐘。試しにチリンと振ってみると、
チリーンーーーーーーーー
そんなに大きな音ではないのに澄みきった余韻が響いて、
まるで周囲の空気まで清らかになるような、そんな音色です。

チリーン、チリーン、チリーンーーーーーーーーー
しばらく托鉢僧のように鈴を振って、聴き入っているお父さんを見ているうちに、
ふと思いつきました。
「それ、子ども呼ぶのに使ってもいい?」
「ん? いいよ」
という訳で、それから外にいる誰かを呼びたいときには、
熊鈴の登場と相なりました。

効果の方はどうかといえば、これが効く効く。
チリンチリンチリンーーーー
ほぼ一発で、「はあいはあい」パタパタパタパタ・・・
「ハアハア、聞こえたよ。くますず、ならした?」
「鳴らした鳴らした。はい、入ろうね」
長年の夕方の問題も、一気に解決。すごい! 熊鈴の威力。 

ただこれ、熊を驚かせて、逃げ出させるためのものじゃなかったっけ。
こんなにわらわら子どもが寄ってくるなんて、
熊と人間の子どもじゃあちがうけれど、いいのかなあ。

そんなふうに思わないでもないけれど、
どっちにしても時々用もないのにこっそり振ってみてしまう、熊鈴。
権威と信用を高めるためにも、鳴らしていいのは大人だけ、ということにしてあります。
(ハンドルネーム;あきつ)
by harappakobito | 2008-12-19 11:29 | ある日のできごと